── ただしゃがむだけ、ではないからこそ難しい。
スクワットは「キング・オブ・エクササイズ」とも呼ばれることがあります。
それだけ全身に対する効果が高く、私自身もとても大切にしている種目のひとつです。
では、なぜ“キング”とまで言われるのでしょうか?
その理由は、大きく分けて【機能面】と【ボディメイク・健康面】の2つにあります。
⸻
機能面のメリット
• 下半身全体(お尻、太もも、ふくらはぎ)をバランスよく鍛えられる
• 体幹(お腹まわりや背中)の安定力も同時に高まる
• 自重でも、道具を使っても、年齢やレベルを問わず行える
• 日常生活の「しゃがむ」「立ち上がる」動作の改善につながる
⸻
ボディメイク・健康面のメリット
• ヒップアップ・美脚効果(お尻や太ももを引き締めたい方に)
• 姿勢改善・くびれづくり(体幹との連動で全身のバランスが整う)
• 骨密度の向上・転倒予防(地に足をつけてしっかり体を支える力が育つ)
• 運動不足や筋力低下の予防(シニア世代にも取り入れやすい)
⸻
年齢や運動経験を問わず、体づくりにも健康づくりにも効果的なスクワット。
だからこそ、これほど多くの人に選ばれているのかもしれません。
…でも、その一方で、最近ちょっと気になる場面にも出くわします。
⸻
スクワット、間違っていませんか?
たとえば、SNSや動画でよく見かけるこんな動き:
• 腹圧が抜けたまま、腰を折るようにして上下している
• お尻が使われず、太ももばかり張ってしまっている
• 「とにかくしゃがめばいい」と思って無理なフォームになっている
実際、こうした動きを真似して膝や腰を痛めたという声も聞きます。
結果として、お尻は垂れたまま、太ももはパンパンに張り出してしまうという残念な状態になることも…。
スクワットは「しゃがむだけ」の動作に見えるかもしれません。
でも本当は、もっと繊細で、身体の使い方を丁寧に積み上げていく必要があるエクササイズなんです。
⸻
スクワットには「前提」がある
そもそも、スクワットを正しく行うには、次のような条件が必要です:
• 骨盤をニュートラルに保ち
• 背骨を安定させて真っ直ぐ立ち
• 肩甲骨を下げて、頭が胸郭の真上にある状態を作る
• 腹圧をしっかり保ちながら、股関節から動く
この「股関節から体を折る動き」ができていないままスクワットを始めてしまうと、どうしてもフォームが崩れたり、目的の筋肉が使えなかったりします。
⸻
「股関節から折る」って、どういうこと?
ここで出てくるのが、ヒンジ動作という考え方です。
ヒンジとは、「蝶番(ちょうつがい)」の意味。
つまり、ドアがパタンと開くように、股関節を支点に体を折りたたむ動きのことを指します。
たとえば:
• 背中をまっすぐ保ったまま、お尻を後ろに引くように上体を倒す
• 腰を反らせたり丸めたりせず、体幹の軸を安定させたまま動く
これが、ヒンジ動作です。
この動きができるようになると、
• 腰を痛めにくくなり
• お尻やもも裏(ハムストリング)にしっかり効き
• スクワットやデッドリフトのフォームが安定します
逆に、このヒンジがうまくできないと、
• 骨盤が前傾しすぎて腰が反ってしまう
• 骨盤が後傾したまま背中が丸まり、深くしゃがめない
• 結果、膝や腰への負担が大きくなり、狙った筋肉に効かない
となってしまいます。
⸻
ヒンジ動作は、独学では難しい
ヒンジ動作は一見シンプルに見えますが、
実際には 腹圧のコントロールや 姿勢の認識といった要素が関わってくるため、意外と難易度が高いのです。
雑誌や動画を見ながら「それっぽく」真似しているつもりでも、
• お腹に力が入っていなかったり
• 背中が丸まっていたり
• 股関節ではなく腰から動いていたり
ということがとても多く見られます。
私のスタジオにいらっしゃるお客様も、最初は「スクワットは知ってる」と言われる方が多いですが、
いざ体を見ていくと、ヒンジ動作がうまくできていなかったという方は少なくありません。
⸻
だからこそ、「地味な練習」が未来を変える
スクワットは、ただしゃがんで立つだけの動作ではありません。
土台をしっかり作ってから行うことで、ようやく本来の効果が発揮される種目です。
私自身も、初回のセッションからいきなりスクワットを行うことはほとんどありません。
まずは、
• 腹圧を高めて体幹を安定させること
• 姿勢を整え、無理のないポジションをとれるようにすること
• 股関節から自然に体を折る「ヒンジ動作」を身につけること
こうした基礎をしっかり積み上げたうえで、すぐにスクワットに入ることはせず、
まずは姿勢や腹圧、ヒンジ動作などの土台づくりを数回かけて行ってから、ようやく自重のスクワットへと移行していきます。
このように、段階的に「スクワットができる身体」を育てていくことを大切にしています。
さらに、背中にバーベルを担ぐ「バック・スクワット」に関しては、もっと慎重に進めています。
人によっては、最低でも1〜2ヶ月。長い方だと半年ほどかけて、土台をしっかり作ってから取り組むようにしています。
スクワットは確かに「キング・オブ・エクササイズ」。
でもそれは、「誰でもすぐにできる簡単な運動」という意味ではありません。
難易度の高いエクササイズだからこそ、焦らずに丁寧なステップを踏むことで、本当の効果が見えてきます。
お尻を上げたい。
太ももを引き締めたい。
姿勢を良くしたい。
年齢を重ねても、自分の足でしっかり歩きたい。
そんな想いを持っている方こそ、ぜひ一度「しゃがむ前の体の使い方」に目を向けてみてください。
私のスタジオでは、見た目や流行だけにとらわれず、
一生モノの体の使い方をお伝えできるよう、日々レッスンを行っています。
⸻
おわりに
スクワットは、誰にでも開かれた「全身トレーニング」です。
でも、その本当の価値を引き出すには、地味で地道な“準備”が必要です。
ヒップアップも、美脚も、健康も。
すべては「正しく動ける身体」から。
もし今、スクワットをしているけれど効果を感じられないという方がいれば、
ぜひ一度、ヒンジ動作や体の使い方を見直してみてくださいね。
